Lesson4-3 古代ギリシャ・ローマ

中近東で生まれたチーズはギリシャ人が発展させ、その発展はそのままローマに受け継がれました。紀元前8世紀ギリシャのホメーロスの叙事詩「オデッセイア」や「イーリアス」にもチーズ作りの情景が描かれています。
そこから、その時代のチーズの調理法や位置づけについて知る事が出来ます。

ギリシャ・ローマのヨーロッパにおけるチーズ事情

磨り下ろしたチーズ

「イーリアス」では兵士の疲れを癒すため、ワインに磨り下ろしたチーズを入れて飲ませ、体力を回復させる場面が出てきます。 このように、ギリシャローマではカチカチに熟成されたチーズを磨り下ろして料理に使うことが多かったようです。これらのデータを裏づけるように、紀元前1000年以降のイタリアやギリシャ では下ろし金が多く出土されています。

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「やわらかいチーズ」と「乾いたチーズ」

このように磨り下ろすような固いチーズだけではなく、もちろんフレッシュチーズも食べられていました。当時の文献には「やわらかいチーズ(caseus mollis)」「乾いたチーズ(caseus aridus)」と書かれており、「やわらかいチーズ」がフレッシュチーズ「乾いたチーズ」が熟成された固いチーズを指しています当時のローマでは「乾いたチーズ」のほうが圧倒的に価値が高く、需要もあったようです。

古代ローマの大きな家ではチーズを作れる台所があり、熟成させる倉庫もありました。大きな町ではチーズを薫製にする場所もあり、当時の文献によると、リンゴの木などを燃やして燻していたようです。

古代地中海における美食の中心地 シチリア島

シチリア島では紀元前3000年にはチーズが作られており、紀元前4世紀には地中海の美食の中心地になっていました。そこではチーズ料理が盛んに発明され、チーズを使った料理の本もたくさん書かれ、ギリシャにチーズを輸出する有数の生産地のひとつになっていました。

古代ローマにおける大農地改革と『農業論』

ヨーロッパではチーズの製造がはじまるとほぼ同時に、豚の家畜も始まりました。何でも食べて多産な豚は重要なタンパク源となり、チーズを生産する際に排出されるホエイは栄養たっぷりで、豚を肥えさせる格好の餌になります。

紀元前2世紀ローマの政治家カトーの著作『農業論』には、乳を出す羊10頭あたり豚を1頭を飼ってホエイを餌にするとよいと書いてあります。この頃の地層から出土される豚と羊の骨の数の割合もちょうどこの記述を裏づけるものだそうです。

ちなみにこの『農業論』という本、Lesson1-2に同名の本が出てきましたが、別の本です。この頃 のローマは度重なる戦争による農地の荒廃と、著しい人口増加による食料事情に迫られて大農場の構築が盛んに行われ、この類いの農業経営のノウハウ本が多く書かれたのです。
カトーの『農業論』は料理のレシピについてもかなりのページ数が割かれており、チーズを使ったケーキやプリンなども掲載されています。これらのスイーツは食べるためだけではなく、神に捧げるお供え物でもありました。

ギリシャ・ローマ以外のヨーロッパにおけるチーズ事情

ギリシャやローマ以外のヨーロッパに目を向けると、それらの場所でもチーズの歴史は意外と古く、紀元前1000年くらいにはイタリア、フランス、スイスあたりの山岳地帯で既にチーズは作られていました。民族はケルト人が中心です。ケルト人はこの時代、ヨーロッパ全土に広がり、ローマやゲルマン民族に同化されるまでヨーロッパの主要文化だったのです。

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出典: ja.wikipedia.org

これらのケルト人によるチーズ作りがいつから定着したのかは、ケルト人が文字の文化を持たなかったため、ほとんど知られていません。辛うじて解るのはローマの文献からです。

ローマは地中海に面する領土のほぼ全域を手中に収め、かなり自由な交易を行っていました。 ケルト人の作るチーズはローマでも評判で、当時の交易都市マッサリア(現在のフランスのマルセイユ)などを経由してローマに輸入されていました。ローマの文献によると現在のイタリア、スペイン、フランス、スイス、トルコあたりがチーズの輸入元として記録されています。

■Lesson4-3 まとめ■

  • 中近東で生まれたチーズはギリシャ人が発展させ、ローマに受け継がれた。紀元前8世紀ギリシャのホメーロスの叙事詩「オデッセイア」や「イーリアス」にもチーズ作りの情景が描かれている。
  • ギリシャやローマではカチカチに熟成されたチーズを磨り下ろして料理に使うことが多かったとされ、紀元前1000年以降のイタリアやギリシャでは下ろし金が多く出土している。
  • 固いチーズだけではなく、フレッシュチーズも食されており、当時の文献には「やわらかいチーズ(caseus mollis)」「乾いたチーズ(caseus aridus)」と記載されている。「やわらかいチーズ」がフレッシュチーズ、「乾いたチーズ」が熟成された固いチーズを指し、当時のローマでは「乾いたチーズ」のほうが圧倒的に価値が高く、需要も高かった。
  • シチリア島では紀元前3000年にはチーズが作られており、紀元前4世紀には地中海の美食の中心地にとして発展、チーズ料理が盛んに発明され、ギリシャにチーズを輸出する有数の生産地のひとつとなっていた。
  • ヨーロッパではチーズの製造とほぼ同時に豚の家畜も始まり、栄養たっぷりのホエイを餌とした豚は重要なタンパク源となった。カトー著作『農業論』には、乳羊10頭あたり豚を1頭を飼ってホエイを餌にするとよいとの記載もある。
  • ギリシャやローマ以外のヨーロッパでのチーズの歴史も古く、紀元前1000年位にはイタリア、フランス、スイスあたりの山岳地帯でケルト人を中心に既にチーズが作られ、 ケルト人の作るチーズはローマでも評判だった。