Lesson7-2 フランスのチーズ事情

フランスは世界で最もチーズの種類が多い国です。かつてフランスがドイツに占領された時、イギリスのチャーチル首相が「360種類ものチーズを作っている国が滅びるわけがない」と言ったというのは有名な話です。

全世界にちらばっているチーズのバリエーションの大半は、元を正せばフランスのオリジナルに行き当たります。

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A.O.C.の設立

フランスでは1919年にA.O.C.(Appellation d’origine contrôlée/原産地呼称統制)が設立されました。これは地域の特産物の品質と伝統的な製法を保護する制度で、認可された食品は、材料の産地や製法を綿密に特定され、そこから少しでも外れるものは同じ銘柄を名乗ることができなくなります。

最初はワインが対象でしたが、次第に他の食品にも広がってゆき、1925年にロックフォールが初めてチーズでA.O.C.の認可を取得しました。以来現在に至るまで45種類ほどのチーズがA.O.C.に登録されています。

フランスではかつて15世紀にシャルル6世が、ロックフォール村以外の人々がロックフォールを模造することを禁止したことがありました。「土地の味」を守るというフランス人の意識が昔から強かったことを伺わせます。

1992年にEUはフランスのA.O.C.を参考に、ヨーロッパ全域に適用する原産地名称保護制度を設けました。英語ではP.D.O.(Protected Designation of Origin)イタリア語ではD.O.P.(Denominazione di Origine Protetta)、そしてフランス語ではA.O.P.(Appéllation d’Origine Protégée)と言い、ヨーロッパ全土で150種類以上のチーズが認定されています。

2009年からこの原産地名称保護制度をEU各国で統一しようということになり、フランスのチーズのA.O.C.表記はすべてA.O.P.に変わりつつあります。

A.O.C.表記からA.O.P.へ

アフィヌール(熟成士)について

そんなフランスでも工業化の波は押し寄せ、大規模な工場が複数の小さな農家からミルクを集め、チーズを大量生産するといったケースが増えてきました。工場の大量生産では、どうしても熟成の部分がいい加減になります熟成何週間、何ヶ月、時には1年以上もの時間をかけて、熟成する環境の湿度や温度を適切なものに維持し、チーズの熟成具合を厳しくチェックしなければならない、チーズの製造過程でも最も専門的な知識と勘の必要とされるプロセスです。

そこで新たにスポットが当たっているのが熟成士、フランス語でアフィヌール(affineur)という、チーズ製造の熟成工程を専門としたプロフェッショナルです。

アフィヌールには大きなチーズ会社に所属し、工場の熟成過程を担当している者や、フリーのアフィヌールとして中小のチーズ工房と契約している者、またチーズ熟成会社を設立し、チーズ製造業者から未成熟のチーズを買い付け、自分のところで熟成させ、販売ルートに回すことで利益を得ている者もいます。

フランスではアフィヌールによってチーズの味わいが変わりどのアフィヌールが熟成させたかでチーズの価値が変わることもあります。

アフィヌールにあたる熟成の専門家はイタリア、スイス、オランダなどにも存在し、チーズ製造の工業化に伴い近年そのニーズが高まっています。日本もその例外ではありません。

近年になってアルチザンチーズの復興が盛んになり、小規模の酪農家やチーズ工房が次々と誕生しているなかで、これから更に熟成士という職業が注目されてくるでしょう。

工場と農家

フランスではチーズ製造の工業化が進みつつも、伝統的な製法と土地の味を守っていこうとする強い意識も根本にあります。コンテのように農家と工房とアフィヌールが効率的に手を結んで、無殺菌の生乳を使いながら大量生産を実現しているところもあります。また、ペライユのように農家製(perail)と工場製(perac)の2通りが製造されているチーズもあります。

フランス人はその土地の味を大切にします。その土地で穫れたものを使ってその土地で改良を重ね、その土地の人々がそれを食べる。そういうことに価値を見出し、何百年も続けてきました。そのようなフランス人の意識が地域による多様性を産み、様々なチーズを開発してきたのです。

これらの大半のチーズはフランスのその地域に行かないと食べられませんが、それでも多くのフランスのナチュラルチーズが日本の専門店や専門の売場に並ぶようになってきています。チーズソムリエとして、フランスのチーズも食し、そのチーズが作られた土地の空気を感じてみることはチーズを楽しむ上でとても素晴らしいことです。

アルチザンチーズ from フランス

シャビシュー・デュ・ポワトゥー(Chabichou du Poitou)

picturepartners/Shutterstock.com

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ポワトゥー=シャラント地域はシェーブルチーズの産地としてはフランス最古にして最大の地域です。8世紀にアラブ系のサラセン人の襲撃を受け、敗北したサラセン人がこの地に土着し、連れてきた山羊でチーズを作ったのがはじまりとされています。

中でもこのシャビシュー・デュ・ポワトゥー最も有名なシェーブルチーズ。千年以上も前にアラブから伝わった山羊乳チーズが現在もフランスのこの地域で作られているのです。

■Lesson7-2 まとめ■

  • フランスで1919年に設立されたA.O.C.(Appellation d’origine contrôlée/原産地呼称統制)は地域の特産物の品質と伝統的な製法を保護する制度で、認可された食品は、材料の産地や製法を綿密に特定され、そこから少しでも外れるものは同じ銘柄を名乗ることができなくなる。
  • 最初の対象のワインから他の食品にも広がり、1925年にロックフォールが初めてチーズでA.O.C.の認可を取得した。現在は45種類ほどのチーズがA.O.C.に登録されている。
  • 1992年にEUはフランスのA.O.C.を参考に、ヨーロッパ全域に適用する原産地名称保護制度を設けた。フランス語ではA.O.P.(Appéllation d’Origine Protégée)といい、ヨーロッパ全土で150種類以上のチーズが認定されている。2009年から、EU各国で制度を統一するため、フランスのチーズのA.O.C.表記はすべてA.O.P.に変わりつつある。
  • 熟成とは長い時間をかけて、熟成する環境の湿度や温度を適切なものに維持し、チーズの熟成具合を厳しくチェックしなければならない、チーズの製造過程でも最も専門的な知識と勘の必要とされるプロセスである。
  • フランスでもチーズの工場大量生産が進む中でチーズ製造の熟成工程を専門としたプロフェッショナルアフィヌール(affineur)=熟成士に注目が集まっている。
  • フレンスには伝統的な製法と土地の味を守っていこうとする強い意識があり、その土地の味を大切ににする想いと努力が、地域による多様性を産み、様々なチーズを開発してきた。