Lesson7-3 イタリアのチーズ事情

イタリアは古代ローマ時代からチーズが食卓に定着していました。食べていたのは主に摺り下ろしてスパイスに使うハードチーズか、フレッシュチーズです。

このため、イタリア発祥のチーズと言えばパルミジャーノ・レッジャーノグラナ・パダーノのようなハードチーズか、モッツァレッラリコッタマスカルポーネのようなフレッシュチーズが多く、ソフト系チーズの種類はフランスに及びません。

この中でパルミジャーノ・レッジャーノだけはチーズの王様の風格を漂わせ、これひとつでイタリアはチーズ大国に肩を並べる権威を有しているかに感じられます。

 

パルミジャーノ・レッジャーノとパルメザン

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1996年、D.O.P.はパルミジャーノ・レッジャーノを認可しました。これによって「パルミジャー ノ・レッジャーノ」の名称は、エミリア・ロマーニャ地方の指定された地域で、伝統製法に則って 作られるチーズしか使えなくなりました。

問題は世界中に広まっている「パルメザン」の名称です。 パルメザンはパルミジャーノ・レッジャーノの英語名で、現在ではほぼ一般名詞のように定着し、 パルメザンの名を冠するチーズが世界中で製造されています。米国では粉チーズの商品名として知られ、日本でもほとんど粉チーズの代名詞のようになっています。

問題はこの「パルメザン」の名称もパルミジャーノ・レッジャーノのD.O.P.認可の範疇に含めるかどうかでした。もしそうなれば、それまでヨーロッパで「パルメザン」の名前で流通していたチーズがすべて名称変更を余儀なくされます。

「パルメザン」は「パルミジャーノ・レッジャーノ」と同様に自国の商標であると主張するイタリア側と、粉チーズの原料となるハードチーズの一般呼称であると抗議する各国との間で論争が続きましたが、ついに2008年、欧州司法裁判所は「パルメザン」の名称もD.O.P.保護に含めるという結論を下しました。

現在EU圏内では「パルメザン」の名称を使ってチーズを製造・販売することは禁止されています。米国やオーストラリア、日本などEU圏外の国ではまだパルメザンの名称を使って粉チーズを販売しておりますが、EUはこれらの名称を変更するように呼びかけています。

 

チーズの銀行

イタリアにパルミジャーノ・レッジャーノを担保にお金を借りられる銀行があることは有名な話です。

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エミリア・ロマーニャ地方のクレディト・エミリアーノ銀行では、熟成前のパルミジャーノ・レッジャーノを担保として預り、チーズ製造業者に次の仕込みに必要な資金を融資しています。もし業者が期限内にお金を返せなければ、銀行は担保のパルミジャーノ・レッジャーノを売りさばき、お金を回収します。

クレディト・エミリアーノ銀行にはパルミジャーノ・レッジャーノ専用の熟成倉庫が2つあり、そこには44万個、時価にして約180億円相当のパルミジャーノ・レッジャーノが保管され、専属の熟成士が厳しく管理をしています。

もともとヨーロッパでは中世の時代からチーズを担保や取引に使うといった文化がありました。現在の融資システムが始まったのは戦後のこと。最初は恐慌のあおりで資金が焦げ付いたチーズ業者を援助しようとしたことがきっかけでした。クレディト・エミリアーノはイタリア国内で約560ほどの支店を持つ大手銀行で、パルミジャーノ・レッジャーノによる収益は全体の1%ほどだそうですが、地域経済を支えるチーズ文化の保護といった大義名分の元、収益の大小に関わらずこのシステムは続けていくそうです。

 

アルチザンチーズ from イタリア

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Brian Yarvin/Shutterstock.com

Brian Yarvin/Shutterstock.com

アルプス山脈のイタリア側、ヴァッレ・ダオスタ自治州で最も有名なチーズ。場所柄、同じアルプス山脈付近で生産されているフランスのラクレット、アボンダンスと似ています。農家製と工場製があり、どちらも無殺菌の生乳を使用して作られていますが、やはり農家製は品質の面で工場製を上回ります。

 

■Lesson7-3 まとめ■

  • イタリアは古代ローマ時代からチーズが食卓に定着しており、摺り下ろして使うパルミジャーノ・レッジャーノやグラナ・パダーノハードチーズか、モッツァレッラやリコッタ、マスカルポーネのようなフレッシュチーズが中心である。
  • 1996年、D.O.P.がパルミジャーノ・レッジャーノを認可したことにより、「パルミジャー ノ・レッジャーノ」の名称は、エミリア・ロマーニャ地方の指定された地域で、伝統製法に則って 作られるチーズでしか使用できなくなった。
  • これにより世界中に広まっている「パルメザン」の名称もパルミジャーノ・レッジャーノのD.O.P.認可の範疇に含めるかどうかで論争となったが、2008年、欧州司法裁判所が「パルメザン」の名称もD.O.P.保護に含めるという結論を下し、現在EU圏内では「パルメザン」の名称を使ってチーズを製造・販売することは禁止されている。
  • イタリアにパルミジャーノ・レッジャーノを担保にお金を借りれるクレディト・エミリアーノ銀行という銀行がある。