Lesson8-2 パッケージで選ぶポイント①

よい個体を選ぶにはチーズ本体の状態で判断するしかないのですが、日本の売場にはきちんと包装され、中身がわからない形で売られていることがよくあります。そういう場合に便利なのが、パッケージの見方を知っておくことです。

パッケージにはそのチーズを見極める貴重な情報が記されています。まず重要なのはミルク産地、そして誰が作ったか、あとは脂肪分でしょう

それではひとつ例として「カマンベール・ド・ノルマンディ」のパッケージをご覧いただき、パッケージの見方の感じをつかんでいきましょう。

カマンベール・ド・ノルマンディのパッケージ

このパッケージには、以下のような項目が記載されています。

  1.  「CAMEMBERT DE NORMANDIE 」カマンベール・ド・ノルマンディ(チーズ名)
  2.  「AU LAIT CRU」無殺菌乳を使用
  3. 「Fabriqué à CAMAMBERT」カマンベール産
  4. 「PRODUCTION FERMIER」農家製
  5.  A.O.P.マーク
  6. 「FR 61.****** CE」生産地域と生産者を表すコード番号
  7. 「François DURAND」生産者名/生産者の所属/郵便番号

いかがでしょうか。
このようにじっくりパッケージを見ていくことで、このチーズがA.O.P.マークを取得した農家製造の正真正銘カマンベール・ド・ノルマンディだということが分かります。最初は項目が多くアルファベットばかりで分かりにくいかもしれませんが、慣れていけばだんだん分かってくるようになりますので、売り場では楽しんでパッケージを観察してみましょう。

最高品質のチーズの選び方

とびきりの最高品質のチーズを探している方は、以下の3つの要素に注目してみてください。

  • A.O.C.、A.O.P.、D.O.P.等のマーク
  • 無殺菌乳(lait cru)
  • 農家製(fermier)

まずA.O.C.、A.O.P.、D.O.P.等のマークについてはもう説明の必要はないと思います。これらのマークがついているチーズは厳しい審査をパスし、綿密に産地から素材、製法まで特定され、その品質を保護された最高級品の証です。

無殺菌乳の良さ

無殺菌乳を使用しているチーズは、ミルクに含まれた素材そのものの風味がそのままチーズになったものです。家畜が生活し、ミルクを出したその場所の風土が生地の中に生きている奥深い味わいの逸品だと言ってよいものです。表記はフランス語圏では「lait cru」、英語圏では「raw milk」等と書いてあります。

低温殺菌されたミルクのものはフランス語圏では「lait pasteurisé」、英語圏では「pasteurized milk」等の表記になります。

農家製の良さ

農家製は小規模の農家が自分のところで飼っている家畜のミルクを使い、自前の工房で製造しているものです。ミルクの移動が少なく、ミルクに含まれる組織がほとんど壊れることなくチーズになっているので、高い品質が期待できます。また、農家の人の手作りなので、作り手の個性が反影された、大量生産では味わえない暖かみと奥深さが感じられるチーズかもしれません。

表記はフランス語で「fermier」ですが、これは男性名詞に付く場合で、女性名詞に付く場合は「fermière」となります。フランス語でチーズはすべて男性名詞なので、「fermier」と書かれている場合が多いのですが(例:le fromage fermier)、上のパッケージのように女性名詞の「production(製造)」に付いて「fermière」のようになっている場合がありますので見逃さないよう気をつけてください。

工場製の場合はフランス語で「industriel」の表記になります。

良いチーズの選び方

上の三拍子が揃ったチーズは確かに最高級品ですが、やはり値段は少々お高くなります。また、最高品質と言ってもそこは人それぞれ。高いお金を払ってたまたま自分の好みのチーズではなかったということになれば、失望感もひとしおです。そこで「最高」とまではいかなくても、良いチーズを探したいという方は、次の3つに注目してみてください。

  • 産地
  • 生産者
  • 脂肪分

産地で探す

名産地として知られている地域で作られたチーズは、良いチーズの可能性が高い傾向にあります。同じ地域には同じような製法が浸透し、似たような環境で、近い品質のチーズが作られていることが多いからです。

また、わずかな素材の違い、製法や地域の違いでA.O.C.の認可に漏れたチーズもあります。例えばパルミジャーノ・レッジャーノとほぼ製法も風味も同じで、生産地が隣同士のグラナ・パダーノなどです。グラナ・パダーノはD.O.P.に認可されている有名なチーズとなりましたが、隠れたところでこのようなケースは多くあります。
A.O.C.やD.O.P.に認可されたチーズと産地が同じ、または近くで、タイプとサイズや形が同じだったりするものは、品質が近いと推測することも可能です。

パルミジャーノレッジャーノ(parmigiano reggiano)gresei/Shutterstock.com

このテキストを最初からじっくり読まれた方は、どのようなタイプのチーズがどのような場所でどのような方法で作られてきたのか、ある程度は概要がわかってきたことと思います。産地をもとに、チーズのサイズ・形、その他の要素と照らし合わせてみて、どれが美味しいチーズか、自分の好みのチーズか、推理してみるのも選ぶ楽しみのひとつになるかもしれません。

産地は、「Fabriqué à CAMEMBERT(カマンベール産)」と書いてある場合もあれば、「FR 61.071.002 CE」のようなアルファベットとコード番号や郵便番号だけの場合もあります。これらは仏語辞典やインターネット等で調べれば対応表が存在します。また、この「FR 61.071.002 CE」をそのままGoogle等の検索にかけると、このコード番号に対応する地域や農場のページが出てくる場合もあります。

生産者で探す

農家製(fermier)や工場製(industriel)以外に、「artisanal(小規模なチーズ工房製)」「cooperative(協同組合製)」といった表記もあります。

「artisanal」は小規模の工房で作っているチーズで、ミルクは契約している複数の農場から仕入れ、職人たちが手作りでチーズを製造しています。自前の農場は持っていないのでミルクの移動はありますが、やはり少人数の職人たちによって農家製と同じような手作りをしていますので、生産者の個性や思い入れが反影されたチーズだと言えます。

「cooperative」は協同組合製と言い、複数の農場または製造者が共同で出資してチーズ工房を設け、それぞれがミルクを持ち寄り製造しています。やはり工場での大量生産よりは手作りに近い味わいがあります。

脂肪分で探す

チーズの生地に含まれる乳脂肪分の含有率が高いほど、コクがあってまろやかになります。また、乳脂肪分はチーズ独特の辛みや刺激をやわらげる働きもありますので、初心者にも食べやすいものになります。あまりにもチーズ臭いものが苦手な方は、乳脂肪分を目安に選んでみるのもよいと思います。

表記はMatière Grasse(略:MG)や、FDM(Fat in Dry Matter)等で表示されています。

■Lesson8-2 まとめ■

  •  パッケージにはそのチーズを見極める貴重な情報が記されている。まず重要最初はミルク、産地、そして誰が作ったか、あとは脂肪分などを確認していくとよい。
  • とびきりの最高品質なチーズを探すには、①A.O.C.、A.O.P.、D.O.P.等のマーク②無殺菌乳(lait cru)③農家製(fermier)の3つの 要素に注目してみると良い。
  • A.O.C.、A.O.P.、D.O.P.等のマークがついているチーズは厳しい審査をパスし、綿密に産地から素材、製法まで特定され、その品質を保護された最高級品の証である。
  • 無殺菌乳を使用しているチーズは、ミルクに含まれた素材そのものの風味がそのままチーズになったもので、風土が生地の中に生きている奥深い味わいの逸品だと言える。表記はフランス語圏では「lait cru」、英語圏では「raw milk」と書かれている。
  • 農家製は小規模の農家が自分のところで飼っている家畜のミルクを使い、自前の工房で製造しているもの。ミルクに含まれる組織がほとんど壊れることなくチーズになっているので、高い品質が期待でき、農家の作り手の個性が反影された、大量生産では味わえない暖かみと奥深さが感じられるチーズが多い。表記はフランス語では「fermier」「fermière」と書かれている。
  • 良いチーズを探したいという方は、①産地②生産者③脂肪分の3つに注目するのがポイント。
  • 産地に注目することで、わずかな素材の違い、製法や地域の違いでA.O.C.の認可に漏れた名品のチーズを手頃な価格で手に出来ることがある。A.O.C.やD.O.P.に認可されたチーズと産地が同じ、または近くで、タイプとサイズや形が同じだったりするものは、品質が近い可能性が高い。
  • 生産者表記には農家製や工場製以外に、「artisanal(小規模なチーズ工房製)」や「cooperative(協同組合製)」といった表記もある。どちらも小規模な工房で手作りされているものでミルクの質も高くチーズも手作りに近い味わいがある。
  • 脂肪分の表記を見るのは、チーズの生地に含まれる乳脂肪分の含有率が高いほど、コクがあってまろやかになるためである。また、乳脂肪分はチーズ独特の辛みや刺激をやわらげる働きもあり初心者にも食べやすいものである。