夏に作られた美味しいチーズ
フランスのコンテなどはLesson6-18で学んだ通り、品質によって茶色と緑色に色分けされていますが、このように銘柄によって独自の品質表示を設けているものがいくつかあります。中でもボーフォールやコンテなどのアルプス山脈で作られる「山のチーズ」に付けられる「alpage(アルパージュ)」や「été(エテ)」の表記は狙い目です。これらは夏のあいだに搾乳されたミルクを使った高品質のチーズの証だからです。
「alpage(アルパージュ)」とは「高山の斜面にある天然の牧草地」の意味で、それが発展して「乳牛がアルパージュで牧草を食べて放牧生活をしていた時期」も指しています。6月中旬から9月下旬の3ヶ月強の期間に作られたチーズであることを表している表記になります。
「été(エテ)」とはフランス語で「夏」の意味で、夏の放牧期間に作られたチーズにつけられます。アルパージと同様、品質が高いと言われています。
夏の間の牧草はミネラルが豊富です。また初夏の牧草には花が咲き、それらの草花を食べて育った牛のミルクは香りが高く美味しいと言われています。
これは「山のチーズ」以外も同様に考えることが出来ます。そもそも家畜がミルクを出すのは春から夏にかけてです。現在は酪農技術が発達して一年中ミルクがとれますが、やはり旬に作られたもののほうが、人間の手によって自然の法則を歪められて作られたものより美味しいのは自然なことです。
山のチーズ以外にアルパージュやエテの表記はありませんが、チーズの種類と販売時期から逆算して、そのチーズがどの時期のミルクを使ったものなのかを推測することは可能です。
例えばモッツァレッラのようなフレッシュチーズは熟成期間がないので販売時期が作られた時期とほぼ同じだと考えることができます。白カビチーズなら出荷されるまでの熟成期間は半月〜1ヶ月、青カビチーズなら2〜3ヶ月、シェーブルタイプやソフトチーズなら数日〜1ヶ月くらい。ハード系のチーズは「何ヶ月熟成」を謳って販売しているものが多くあります。
このようにして春夏の期間に作られたチーズを探すことも良いチーズを選ぶ基準になります。
■パッケージでよく見る知っておくと便利なキーワード■
パッケージの見方を学んできたところで、最後に知っておくと便利なキーワードをまとめました。良く見かけるものを中心に記載しているので、これだけ知っておけば、いままでよりも基準をもって「選ぶ」ことが出来るようになるはずです。
今すぐにでもチーズ売り場に行って見比べてみたいですね。
affiné(仏語)…熟成した
affumicato(伊語)…薫製した
artisanal(仏語)…小規模なチーズ工房製。ミルクは他の複数の農場から仕入れ、職人が手作りで製造している
cooperative(仏語、英語)…協同組合製。数名から数十名の生産者が共同でミルクを持ち寄り、製造している
été、alpage(仏語)…夏にアルプスの牧草を食べていた家畜のミルクで作られた
fermier、fermière(仏語)…農家製。搾乳からチーズ製造まで自前の農家で手作りで行っている
industriel(仏語)…工場製
lait cru(仏語)、raw milk(英語)…無殺菌乳
lait pasteurisé(仏語)、pasteurized milk(英語)…低温殺菌乳
matière grasse(仏語)…脂肪分
mesi(伊語)…月。イタリアは長期熟成のハード系が多いので、覚えておくと便利(例:22 mesi→22ヶ月熟成)
vecchio(伊語)…長期熟成
■Lesson8-3 まとめ■
- 牧草のミネラル分が豊富で、花もつける春夏の期間に搾乳されたミルクで作られたチーズを探すことも良いチーズを選ぶ基準となる。
- チーズは銘柄によって独自の品質表示を設けているものがいくつかあり、ボーフォールやコンテなどの「山のチーズ」に付けられる「alpage(アルパージュ)」や「été(エテ)」の表記は夏のあいだに搾乳されたミルクを使った高品質のチーズの証となる。
- 「alpage(アルパージュ)」とは「乳牛がアルパージュで牧草を食べて放牧生活をしていた時期」を示し、6月中旬から9月下旬の3ヶ月強の期間に作られたチーズの表記である。
- 「été(エテ)」とはフランス語で「夏」の意味で、夏の放牧期間に作られたチーズにつけられ、アルパージュと同様、品質が高い。
- 山のチーズ以外にこのような表記はないが、チーズの種類と販売時期から逆算して、そのチーズがどの時期のミルクを使ったものなのかを推測することができる。
- チーズのパッケージで見かけるのはフランス語やイタリア語、英語など外国語表記がほとんどだが、良く見かけるものはある程度決まっているので、用語を知っておくとチーズ選びの際大変便利である。