現代では、チーズは独立した地位を築き、そのおいしさを求めて製造されています。しかしチーズの発展の歴史では、チーズはミルクが「固まる」事による利便性を重視されている部分も多くありました。
なぜミルクを固める必要があったのか?
この答えをLesson1-1の民話に求めるならば、それはミルクを固めることによりびっくりするほど「美味しくなった」からだと言えるのかもしれません。 とすぐに結論を出す前に、ちょっとナナメから分析してみることで、ミルクを固める別の理由をさぐってみましょう。
■乳糖不耐症の人でもミルクを摂取できるようになった
羊や牛などの泌乳動物の家畜化がはじまったのは紀元前約8500年頃と言われています。実はその頃の人類は、離乳するとミルクの消化に必要な酵素ラクターゼの分泌が止まってしまったため、慢性的な乳糖不耐症を起こしておりました。(乳アレルギーとは別物)これはほ乳類であれば起こり得る現象なので、現代でもミルクを飲むとお腹をゴロゴロと下す方もいらっしゃいます。
それから数千年のうちにチーズが発明されたと考えられますが、その頃の人類もまだ乳糖不耐症の人たちが残っていたと思われます。こちらの症状を引き起こすラクトース(乳糖)を完全に取り除くことは当時の技術ではまだ出来ませんでしたが、少なくともチーズにすることによって、乳糖不耐症の人でも栄養価の高いミルクを摂取しやすくなりました。
つまり人類は日常的にミルクを飲みはじめるより早く、あるいはほぼ同時期に、チーズを食べるようになっていた可能性が高いのです。
■保存や輸送がしやすくなった
ミルクは腐りやすく、気候によっては1日でダメになってしまいます。特にこの民話のように、ラクダに乗って旅をするような乾燥地域でミルクが無事なはずがありません。固形状にすることによって初めてミルクは長期保存が可能になり、輸送もしやすく、年間を通して一般の人たちの口に入ることも容易になってきたのです。
古代ローマの作家コルメラは、その著書『農業論』の中で「チーズをじっくり熟成させたら、 輸出までできるようになった」と記しています。
チーズの語源と「固める」ことの関係
ミルクが固まりチーズになるしくみは後で詳しく説明いたしますが、簡単に言うとミルクのタンパク質の主成分であるカゼインが酵素や酸の働きによって固まるからです。この「カゼイン」の語源であるラテン語「caseus」が「チーズ(cheese)」の語源でもあります。
また、チーズをフランス語で「フロマージュ(fromage)」、イタリア語では「フォルマッジォ (formaggio)」といいます。これは英語でも「form」という同系統の単語があるように、「形づくる」「形成する」という意味が含まれています。
チーズがミルクを固めた食べものであることが、その語源からもわかりますね。
■Lesson1-2 まとめ■
- 羊や牛などの家畜化がはじまったのは紀元前約8500年頃と言われている。
- その頃の人類は、離乳するとミルクの消化に必要な酵素ラクターゼの分泌が止まってしまったため、成人になるとミルクを消化、吸収できずに乳糖不耐症の人が多くいたと考えられている。(以前は食物、乳アレルギーとして判断されていた)
- チーズにすることで、乳糖不耐症の人でもミルクを摂取できるようになった。
- ミルクのままでは腐りやすく保存することが困難だったが、固形状にすることで長期保存が可能になり、輸送もしやすく、年間を通して口にする事が容易となった。