チーズにどんな飲み物を合わせるか、これは人それぞれの好みにもよります。法則のようなものはありますが、鉄則はありません。自分がこの組み合わせが気に入ったと思えば、それがあなたにとっての素敵なマリアージュなのです。
「法則あるが鉄則なし」
これを念頭に入れておかないと、自分のお気に入りのマリアージュを発見する楽しみもなくなってしまいますので、注意してください。
ワインと合わせる基本原則
チーズとワインの相性の良し悪しは、お互いの味と香りを邪魔することなく、引き立て合う組み合わせが理想とされています。基本的な考え方としては以下の4つのポイントがあります。
- 同じ産地のものを合わせる
- 味で合わせる
- 香りで合わせる
- 熟成の度合いで合わせる
この4つのポイントはワイン以外の飲み物、あるいは食べ物にも応用が可能です。
①同じ産地のものを合わせる
これがもっとも定番の法則です。発酵や熟成は地域の気候や微生物に左右されるため、同じ産地、または近い産地で発酵・熟成されたもの同士は相性が良いという考え方に基づいています。有名な組み合わせとしては、ノルマンディー地方産のカマンベール・ド・ノルマンディーとシードル、またはカルヴァドスとの組み合わせなどがあります。
以下にチーズとワインの生産が盛んなフランスとイタリアの主な地域と、そこでの定番またはオススメのマリアージュをご紹介いたします。いろいろ組み合わせを試してみる上での参考にしてください。
■ブルゴーニュ地方(フランス)
ボルドーと並ぶフランス二大ワイン名産地のひとつです。ワイン農家がブドウ栽培の傍ら、チーズ製造をしているところもあります。
この地方での定番のマリアージュと言えば、アフィネ・オ・シャブリ(ウォッシュチーズ)とシャブリ(白ワイン)の組み合わせ。アフィネ・オ・シャブリはシャブリの搾りかすから作った蒸留酒で表皮を洗って熟成させたウォッシュチーズです。地域が同じばかりでなく、原料に共通のものが使用されているのも良質なマリアージュのポイントになります。
他にはラミ・ド・シャンベルタン(ウォッシュチーズ)とジュヴレ・シャンベルタン(赤ワイン)との組み合わせ。もともとラミ・ド・シャンベルタンはジュヴレ・シャンベルタンとのマリアージュを楽しむために1950年に作られたチーズで、名前の意味も「シャンベルタンの友(L’ami du Chambertin)」というもの。製法は同じ地域のエポワスを参考に、マール酒で表皮を洗って熟成させています。
エポワスはブルゴーニュ地方で最も有名なチーズと言えますが、やはり同じ産地のサヴィニー・レ・ボーヌとよく合います。
アフィネ・オ・シャブリ(ウォッシュチーズ)とシャブリ(白ワイン)
ブルゴーニュ地方で生産される主なワイン:シャブリ(白)、コルトン・シャルルマーニュ(白)、モンラッシェ(白)、サヴィニー・レ・ボーヌ(赤)、ジュヴレ・シャンベルタン(赤)、ヴォーヌ・ロマネ(赤)、ボジョレー・ヌーヴォー、クリュ・ボジョレー、ボジョレー・ヴィラージュ、マコン
ブルゴーニュ地方で生産される主なチーズ:エポワス(ウォッシュ)、ルイ(ウォッシュ)、アフィネ・オ・シャブリ(ウォッシュ)、ラミ・ド・シャンベルタン(ウォッシュ)、バラカ(白カビ)、マコネ(シェーブル)
■アルザス地方(フランス)
フランスの北部は修道院で作られたウォッシュチーズが多く、アルザス地方も有名なマンステールがあります。ドイツとの国境に隣接しているので、ワインもドイツ品種のゲヴュルツトラミネールなどが有名です。白ワインが生産の90%を占めています。
おすすめの同郷マリアージュは熟成の若いマンステールとゲヴュルツトラミネールの組み合わせです。
アルザス地方で生産される主なワイン:ゲヴュルツトラミネール(白)
アルザス地方で生産される主なチーズ:マンステール(ウォッシュ)
■シャンパーニュ地方(フランス)
先にあげたフランスのワイン二大名産地にこのシャンパーニュ地方を加え、三大名産地とも言われています。地名の通りシャンパーニュ(シャンパン)の産地として最も有名です。この地方で生産されているシャウルスは、白カビチーズの中でも少し塩分が強めなので、シャンパーニュの炭酸と相性が良いです。
シャウルス
シャンパーニュ地方で生産される主なワイン:ドンペリニヨン(シャンパン)、ブーブ・クリコ(シャンパン)、クリュッグ(シャンパン)、ランソン・ブラックラベル(シャンパン)、ポメリー(シャンパン)、サロン(シャンパン)、ルイ・ロデレール(シャンパン)、テタンジェ(シャンパン)
シャンパーニュ地方で生産される主なチーズ:シャウルス(白カビ)、ラングル(ウォッシュ)
■ノルマンディー地方(フランス)
ノルマンディー地方は雨が多くて平地が広がる牧草地に最適な地域なので、酪農がとても発達しており、『ミルクの油田』とも言われています。またリンゴの産地でもあり、アルコールはリンゴを発酵させたシードルや、蒸留酒のカルヴァドスが有名です。
シードルは先にあげたカマンベール・ド・ノルマンディーとのマリアージュが有名ですが、その他のノルマンディー地方の白カビチーズやマイルドなウォッシュチーズにもよく合います。
シードルとノルマンディー地方産のチーズ・ヌシャテル
ノルマンディー地方で生産される主なワイン:シードル(リンゴ酒)、カルヴァドス(リンゴ蒸留酒)
ノルマンディー地方で生産される主なチーズ:カマンベール・ド・ノルマンディー(白カビ)、ヌシャテル(白カビ)、リヴァロ(ウォッシュ)、ポン=レヴェック(ウォッシュ)、ブリア・サヴァラン(フレッシュ)
■イタリア北部
北部はイタリアを代表するチーズの名産地が集中しています。チーズの王様パルミジャーノ・レッジャーノをはじめ、青カビチーズの代表選手ゴルゴンゾーラ、アルプス山脈の近くではイタリア版「山のチーズ」の代表格フォンティーナを産出しています。
ハード系のチーズはあまりえり好みをしないので、どのワインともそれなりのマリアージュを楽しめます。ウォッシュタイプのタレッジオはヴァルテリーナ・スペリオーレなど、ヴァルテリーナ産のワインと絶妙な相性の良さを発揮します。
タレッジオと赤ワイン
イタリア北部で生産される主なワイン:バローロ(赤)、バルバレスコ(赤)、ガッティナーラ(赤)、アスティ・スプマンテ(スパークリング)、バルベーラ・ダルバ(赤)、バルベーラ・ダスティ(赤)、レチョート・ディ・ソアーヴェ(白)、ソアーヴェ・スペリオーレ(白)、バルドリーノ・スペリオーレ(赤)、フランチャコルタ(スパークリング)、ヴァルテリーナ・スペリオーレ(赤)、ラマンドロ(白)、コッリ・オリエンターリ・デル・フリウリ・ピコリット(白)、レフォスコ(赤)
イタリア北部で生産される主なチーズ:パルミジャーノ・レッジャーノ(ハード)、グラナ・パダーノ(ハード)、ゴルゴンゾーラ(青カビ)、マスカルポーネ(フレッシュ)、タレッジオ(ウォッシュ)、トーマ・ビアンカ(白カビ)、フォンティーナ(セミハード)
■イタリア中部
トスカーナ州がワインの産地として有名です。チーズは羊乳のチーズ「ペコリーノ」の産地として知られています。ペコリーノは羊乳チーズの総称です。
ペコリーノ・ロマーノにはモンテソーディ キャンティ・ルフィーナ、ペコリーノ・サルドにはドルチェット・ディ・ドリアーニなどの組み合わせがおすすめです。
ペコリーノ・サルドと赤ワイン
イタリア中部で生産される主なワイン:モンテソーディ キャンティ・ルフィーナ(赤)、ドルチェット・ディ・ドリアーニ(赤)、ブルネッロ・ディ・モンタルチーノ(赤)、カルミニャーノ・ロッソ(赤)、ヴェルナッチャ・ディ・サン・ジミニャーノ(白)、コーネロ(赤)、ヴェルナッチャ・ディ・セッラペトローナ(赤)、ヴェルディッキオ(白)、トルジャーノ・ロッソ・リゼルヴァ(赤)、トルジャーノ(ロゼ)、サグランティーノ・ディ・モンテファルコ(赤)、オルヴィエート・クラシコ(白)、モンテプルチアーノ・ダブルッツォ・コッリーネ・テラマーネ(赤)、ヴェルメンティーノ・ディ・ガッルーラ(白)
イタリア中部で生産される主なチーズ:ペコリーノ・ロマーノ(ハード)、ペコリーノ・トスカーノ(セミハード)、ペコリーノ・サルド(ハード)
■イタリア南部
インドからもたらされた水牛のモッツァレッラ・ディ・ブッファラで有名なカンパニア州や、古代から美食のメッカとして知られるシチリア島などがあり、イタリア全土で手に入るリコッタなども、味はシチリア島のものが一番だと言われています。
シチリア島のラグザーノはモッツァレッラと同じカードをひっぱって練り上げる製法のハードチーズで、輸送の際ラクダの背中に乗せやすいように、変わったローフ型をしています。オリーブオイルやニンニクなどとマリネして、同じシチリア島の白ワイン、グレカニコを合わせて楽しみます。
イタリア南部で生産される主なワイン:タウラージ(赤)、フィアーノ・ディ・アヴェッリーノ(白)、グレカニコ(白)、グレコ・ディ・トゥーフォ(白)、グレカニコ(白)、チェラスオーロ・ディ・ヴィットーリア(赤)
イタリア南部で生産される主なチーズ:モッツァレッラ・ディ・ブッファラ(フレッシュ)、ペコリーノ・シチリアーノ(ハード)、ペコリーノ・ダウノ(ハード)、ラグザーノ(ハード)
■Lesson12-2 まとめ■
- チーズと飲み物の合わせ方は人それぞれの好みにもより、法則はあるが鉄則はない。自分が気に入った組み合わせがあれば、それがあなたにとっての素敵なマリアージュである。この事を忘れない様にいろいろなマリアージュの発見を楽しんでいく事がチーズソムリエとしてのスキルアップにも繋がる。
- チーズとワインの相性の良し悪しは、お互いの味と香りを邪魔することなく、引き立て合う組み合わせが理想とされている。
- チーズとワインを組み合わせる際、基本的な考え方としては、①同じ産地のものを合わせる②味で合わせる③香りで合わせる④熟成の度合いで合わせる、という4つの基本的なポイントがある。
- 同じ産地のものを合わせるのは、ワインやチーズは発酵や熟成は地域の気候や微生物に左右されるため、同じ産地、または近い産地で発酵・熟成されたもの同士は相性が良いという考え方に基づいているためである。
- 地域が同じばかりでなく、原料に共通のものが使用されているのも良質なマリアージュのポイントとなる。
- フランスブルゴーニュ地方での定番のマリアージュ・・・アフィネ・オ・シャブリ(ウォッシュチーズ)とシャブリ(白ワイン)
- ウォッシュチーズが有名なフランスアルザス地方のおすすめの同郷マリアージュ・・・熟成の若いマンステールとゲヴュルツトラミネール
- シャンパンの産地として最も有名なフランスシャンパーニュ地方のおすすめのマリアージュ・・・シャウルスとシャンパーニュ
- 『ミルクの油田』とも言われ、リンゴの産地でもあるフランスノルマンディー地方の有名なマリアージュ・・・カマンベール・ド・ノルマンディーとシードルやカルヴァドス
- イタリアを代表するチーズの名産地が集中しているイタリア北部の絶妙なマリアージュ・・・ウォッシュタイプのタレッジオはヴァルテリーナ・スペリオーレなどヴァルテリーナ産のワイン。ハード系のチーズはどんなワインにも合わせやすい。
- 羊乳チーズ「ペコリーノ」の産地として有名なイタリア中部でのおすすめのマリアージュ・・・ペコリーノ・ロマーノとモンテソーディ キャンティ・ルフィーナ、ペコリーノ・サルドとドルチェット・ディ・ドリアーニ
- リコッタなども味が1番だと称されるシチリア島があるイタリア南部のおすすめのマリアージュ・・・ラグザーノとグレカニコ