Lesson2-3 チーズの製法② 乳酸菌(スターター)と凝乳酵素(レンネット)を加えミルクを固める

原料のミルクを搾ったら、次はミルクを加熱し、乳酸菌(スターター)と凝乳酵素(レンネット)を加え、ミルクを固めます。

ChiccoDodiFC/Shutterstock.com

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Lesson1-1でも記載しましたが、ミルクを固める方法は

  1. 加熱によって固める方法
  2. 乳酸菌(スターター)などの酸によって固める方法
  3. 凝乳酵素(レンネット)によって固める方法

と3つあり、チーズの種類によってどの方法を採用しているかが異なります。

凝乳酵素(レンネット)で固める場合もその効果を補足するために乳酸菌(スターター)を加えますし、乳酸菌などの酸によって固める場合でもその補足効果としてレンネットを加えることが多いので、だいたいのチーズにおいてこの2つは両方とも加えることになります。

3つの方法に共通して言えるのは、成分中に含まれるカゼインというタンパク質をいかに凝集させるかにかかっているということです。

そのためここで、ミルクが固まる原理を説明していきましょう。

①加熱によって固める場合

ミルクを熱すると、表面に薄いタンパク質の膜が浮かび上がってきます。これを集めて作ります。

平安時代に盛んに製造された日本最古のチーズである「蘇」などはこの製法で作られていたようです。 また、別の方法でミルクを固めて排出された水分(ホエイ)を煮詰めて作られる「リコッタ」 という一種のチーズもこの方法です。

②酸によって固める場合

これはヨーグルトが固まる原理と同じです。ミルクを放置してしばらくすると、空気中から自然に混入した乳酸菌が発酵し、固まって沈殿します。そのままほっておくだけでこの現象が起きるので、最初に発見されたチーズの形態はこのタイプだと思われます。

なお、現代で昔ながらの方法用いると、空気中の乳酸菌と一緒に雑菌も入って腐敗してしまう可能性が高いため、スターターによって乳酸菌を直接投入し、そちらを基に発酵を行っていきます。

少し難しくなりますが、酸で固まる原理を説明していきます。

ミルク中では、タンパク質の主成分であるカゼインの粒子(サブミセル/submicelle)が1万個以上集まって「カゼインミセル」という、いわゆるタンパク質の小さな固まりになっています。 このカゼインミセルは、マイナスイオンをもつリン酸カルシウム(calcium phosphate)を大量に包み込み、このマイナスイオンのお陰で、カゼインミセルはお互いくっつくことなく、液体の中で分散した状態で安定しています。ちょうど磁石の同極どうしが反発しあうような状態で、ミルクの水分中にふわふわ漂っている感じを想像してみてください。

ここに酸を加えることによりマイナスイオンが無力化し、等電点pH4.6で反発力を失います。反発力を失ったカゼインミセルは沈殿し、乳清(ホエイ)と呼ばれる水分と分離します。このカゼインミセルが沈殿する現象が、すなわちミルクの凝固ということになります。

この方法でチーズを作る場合は、乳酸菌の他、レモンや酢などの酸を利用することもあります。 よくサラダにしたりインドカレーなどに入っているカッテージチーズ(パニールとも呼ばれる)や、 チーズケーキの原料になるフロマージュ・ブランなどがこの製法で作られています。

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③凝乳酵素(レンネット)によって固める場合

現在のほぼ大部分のチーズがこの方法によって固められています。

使用される酵素はかつて子牛の第四の胃から抽出された酵素が使われていましたが、現在では工場による大量生産が増えたため、微生物で培養したものが主流になっています。古くからチーズを作っているヨーロッパの工房では現在でも実際に子牛や羊の胃袋を煮込んで酵素を抽出しているところもあります。ちなみに第四の胃袋を使用するのは、最も酸度が高いためです。
こうして取り出された凝固酵素剤は「レンネット」と呼ばれています。

酵素によってミルクが固まる原理を説明していきます。

カゼインには親水性と疎水性の両方の性質があり、もともとは親水性の性質をもつカゼインが表面をとりかこみ、疎水性の性質をもつカゼインは内側の核の部分になっています。ここにレンネットに含まれるキモシンという凝乳酵素が作用することによって、内側にひっこんでいた疎水性の部分がむき出しになります。これでカゼインと水分との分離がはじまります。ちょうど水と油が混ざり合わず、分離した状態になるような感じですね。

水と分離をはじめたカゼインは、ミルク中にもともと含まれていたカルシウムと結合してカゼインカルシウムになり、ここにさらに脂肪球をとりこみながら凝集を起こしていきます。これが酵素によってミルクが固まっていく原理です。

酸による凝固は単なる沈殿ですが、酵素による凝固はタンパク質同士がカルシウムの力を借りてがっちり結合していくので、よりしっかりとした組織のチーズができあがります。

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■Lesson2-3 まとめ■

  • ミルクを固める方法には①加熱によって固める②乳酸菌などの酸によって固める③凝乳酵素(レンネット)によって固める、という3つの方法がある。
  • 「ミルクを固める」ことは、カゼインというタンパク質をいかに凝集させるかである。
  • 加熱によって固める方法は、ホットミルクを作る際に表面に膜が張るのと同じ原理で、平安時代の日本最古のチーズである「蘇」や、ホエイを煮詰めて作られる「リコッタ」 という一種のチーズもこの方法によるものである。
  • 酸により固める方法はヨーグルトが固まる原理と同じである。ミルクに酸を加えることでマイナスイオンが無力化し、カゼインミセルが沈殿する現象が、ミルクの凝固である。
  • 酸で固める方法に利用されるのは、乳酸菌の他、レモンや酢などの酸を利用する場合もある。 カッテージチーズや、 チーズケーキの原料になるフロマージュ・ブランなどがこの製法により作られる。
  • 凝乳酵素(レンネット)によって固める方法は現在のほとんどのチーズの製造に用いられる方法である。
  • 使用される酵素は、かつて子牛の第四の胃から抽出された酵素が使われていたが、微生物で培養したものが主流である。第四の胃袋を使用するのは、最も酸度が高いためで、こうして取り出された凝固酵素剤は「レンネット」と呼ばれる。
  • 酵素によりミルクが固まるのは、酵素によりタンパク質同士がカルシウムの力を借りてがっちり結合していくためで、沈殿による酸での凝固よりもしっかりとした組織のチーズができあがる。