■解説■
カマンベール・ド・ノルマンディーがカマンベールの元祖なら、このブリー・ド・モーは白カビチーズの元祖と言えます。
カマンベールはこのブリーを参考に開発されました。 ブリー・ド・モーの特徴として、まずその巨大で平べったい見た目が挙げられます。直径が35cm くらいあるのに、高さはわずか3cm。これには理由があって、白カビチーズは表皮から中心に向かって熟成が進んでいくのですが、表皮の白カビのアンモニア臭が鼻を突くほどきつくなる直前 に中心まで熟成が達する、その絶妙のタイミングにぴったりの厚さがこの3cmなのです。
やわらかい生地でこの形状ですから、大変くずれやすく、これほど運搬に適していないチーズが広く普及したのも、このチーズがイル=ド=フランス地方のブリー村というパリに近い場所で開発されたからこそかもしれません。
中世からフランス王侯貴族に愛され、1815年のウィーン会議では、なぜか会議そっちのけでチーズ品評会が開かれ、全52種類の中からこのブリーが「チーズの王様」に選ばれました。
チーズを食べ尽くしたフランス人が、生涯最後に選ぶのがこのブリー・ド・モーと言われています。実際、人生最後にブリー・ド・モーを食べたがった人物として、ルイ16世がフランス革命で国外に逃亡しようとしたとき、ブリーが食べたくて馬車を止めたために革命軍に捕まったというエピソードが知られています。
ブリーの歴史は古く、一説によるとLesson4-4で言及したカール大帝が食べた珍しいチーズとは、 このブリーだったのではないかと言われています。 カマンベールと比べるとクセがなく、上品な味わいです。成熟してもマイルドさは失いませんが、 ナッツのような風味と濃厚なミルクのコクが出てきます。